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ショート・ショートの小部屋 ・ 小説クランクアップを迎えて。 [研究]

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そよそよと風がそよぐ某・神社―。

縁側には二人の女優主演が今夜茶話会を開くという。
主催者はもちろん、紗笑である。

♪ た~らったら~ ら~ら~ら~ ♪

紗笑 : ちょっとッ!!なんでまたBGMが場違いなわけぇッ?!

彩乃さん : このテーマ曲は大野さん作曲のルパン三世ですわね。

紗笑 : 作者、真面目にサウンドセレクトしてちょうだい!!!

♪ ふっりむいた~ そのっ さ~き~に ♪

紗笑 : うわぁぁぁ!!だめよひぐらしだけはぁぁぁ

彩乃さん : ……。

紗笑 : あかんっ、あかんって!!Take 3!!

♪ Fly me to the moon
And let me play among the stars
Let me see what spring is like...  ♪ 『Fly me to the moon』written by Bart Howard

紗笑 : (腕組みしながら)まぁ、いいかカバー曲だし。
     もう、アニソンしか曲ないわけね。
作者 : (コクコク)

彩乃さん : あら、私も良く聴きますわよ。

紗笑 : え?!彩乃さんもアニソン歌うの?!

彩乃さん : や、歌うんじゃなくて、聴く、聴き一

(友人作のお話にでてきます・友情出演)現おじさん : ははは、諦めな、彩乃ちゃん☆

彩乃さん : ちょw おじさんは呼ばれてないでしょ!引っ込んでてください!!

現おじさん : (……シュン)すごすごと立ち去る。

紗笑 : はい、気を取り直して……。
     今回は、ファイナルを迎えたこの小説の制作秘話・エピソードを作者と交えて語りましょう、という趣旨だったはずなのですが……予算不足のため、なぜか作者がアシスタント側にもマルチに回らないといけなくなったので、今回トーク形式で小出しにしながら、座談会を行おうと思います。

彩乃さん : なのです!!

紗笑 : え~今回、製作にはいろいろ手がかかっているということもあり、作者自身、この作品を書き上げるのはちょっと後から後悔し始めるというオチにもなっていました☆てへぺろ。

彩乃さん : …て、てへぺろッ?!?!…な、なんですの?!その新語は?!

作者 : 【てへぺろ(・ω<)とは、日笠陽子さんが編み出した持ちネタである。 事務所に所属した2006年~2007年頃から使い始めている。 何か失敗してしまった時に、『てへ』と笑い、『ぺろ』と舌を出してごまかす様子を組み合わせることで誕生した。 動き・表情の作り方としては、右手をクルクルッと回転させながらピースサインを作り、右目の横に添え、左目でウインクしつつ、ペコちゃんのように舌を上唇方向に『ぺろっ』と出しつつ、カワイコぶりっ子な声で「てへぺろ~!」】ファンサイト様より抜粋

彩乃さん : そ、そうなのですの、学園ではそのような挨拶はなかったですわ……

(友人作品・これまた友情出演)桂子さん : ま、たしかにそうね。図書室にもあんまりそういった本は置いてなかったし…先生は置かせなかったし。仕方ないわ。

紗笑 : 今回製作に際して、参考にしたページの紹介です……個人的に稲荷神社の歌舞伎芸能のあたりのまとめ情報がリアルすぎてこわいっす。

【本当は怖い稲荷神社】

彩乃さん : 月白島の神社、もなにかありそな気配……(彩乃さんサイドの小説のお話)

紗笑 : 他にも。こっちの方がさらにリアルすぎて深夜2時ぐらいまでかけて見ないほうが賢明かとw後ろ振り返れなくなるよwww

【怖い話まとめブログ】

彩乃さん : 家系に関する話、これは……本当にありそうじゃないです?

紗笑 : 一族、の話って最終的には口承文学モノにたどり着くだろうし……
     さて!読者のみなさんにはこんな紹介ばかりじゃ作者のアクセスが悪くなると
     カンペがきているので(本人がこの情報出せって言ったんだからこっちは出してるのに)
     他の参考情報をもご紹介♪

     夫・ワトソン出演時に竹のお話がありました。
     その際にきっかけとなったのがこちらのサイト様!!

     【かぐや姫も喜ぶ竹の効用】
      こちらは作者自身、マジっすか!!とへぇ~へぇ~と見ていたそうです。

彩乃さん : 作者の様子が良く分かりますわ。

紗笑 : INBAR、という組織もあるのかというところがこの世の中の不思議です。
     で、ワトソンの職業の知識に関わる部分で参考にさせていただきました。
     そして、災害時や応急処置に関わることはとてもデリケートなことなので二つのサイト様を
参考にいたしました。

     【水難事故の救助法(水難救助法)について】
     【人の体温】

紗笑 : 以上が今回、作品で参考に拝眉させていただいた情報サイト様です。本当に助かりました。

彩乃さん : ネット、ってあらためるとすごい世界ですわね……

紗笑 : えぇ……さて!そろそろお時間となりました。今回急遽来ていただいたのは名神彩乃さん^^

彩乃さん : 『ジャッジ・メント』に出演中です。こちらのお話は完結しているミステリーのお話です、くわしくはこちらへ(・▽・)ノ小説・ゲームイラストなどなど

紗笑 : みなさま、ながらく一年以上のお付き合いとなってしまいましたが、ごらんいただいてありがとうございます!!

【加筆】『福の神はいない』 Conclusion [研究]

「その昔、この神社は稲荷大社でもあってね」

奇妙な地震が起こった後の不気味なくらい森に響き渡る夜風の山背(【やませ】雨寒(つゆざむ)や日照不足をもたらし、しばしば冷害を起こす wikipediaより)の風音。
メガネを持ち上げて何もない空を仰ぎ見ながら語りだす、花の父親の宮司。
「昔からそれはそれは江戸の町人はもちろん、参勤交代で中継で遠方からわざわざたどり着いてくる各藩の藩主も訪ねてくるくらいでした。だからなおさら当神無月神社は日本中にその存在を知られるようになりました」

街の様子を遠い目で見つめている紗笑。
遠い方から、木々たちが悲鳴を上げてなぎ倒されているようだ。

「二次災害が起こってるかもしれませんね、手短にお話ししておいた方がいいかもしれません。その神無月神社はなぜ名を日本中に轟かせたのか……秘話があるのです。この街は山と川と街、そして昔は城下町でもありました。大きな災害があった時代に神社を修復・再建する際に、宮大工の慎重な採用活動もそりゃ躍起になったはずだと私は後から先代に伺い納得したのですが、あの祠の数秘的意義を納得した者だけに、神社の立ち入り禁止区域に立ち入らせたのです」
そういって、宮司は神無月神社の設計図を紗笑に見せた。
「実は大阪城も秘密の造りになっていたようです、神無月神社も実は各城の関係者とも繋がりが深く
なおさら設計ラフ・デザイン…が反映されたところもあるかもしれませんね。まだ解読不能な書物がたくさんあるのですが、現在は専門の図書館の精鋭チームに解読を依頼しているところです」
紗笑は息を呑んだ。



それもそのはずで、今目の前にこうして多くの書物が散乱されているのか。



その散乱されたことにもひとつひとつ意義を物語っているようにも思えた。



ー神の見えざる手によって。




ふと、社殿から離れていた自宅からパタパタと浴衣のすそをひきながら、駆け出す足音が聞こえた。
「は、は、はぁ、だんな様ぁ!向かいの方からもう、す、水害で街の道路があちらこちらで冠水で
自宅待機の戸別放送が公民館から通達されてるようですわ!」
メガネをクイッと持ち上げる宮司。
「…当家には放送が流れない、ってことはもしや停電か電話線切れていることも考えられる、ってことか」
宮司は散乱された書物を整理しながらも、家のことも気になってきたようだ。
「紗笑さん、すいませんがまだ私は重要な書物の整理や社殿の被害状況を見て回らないといけないようです」
紗笑もどこかで愛する夫のことが頭に過ぎった。

―そうだ。
 ワトソンも駅前から戻ると言ってたっけ……

―車じゃ通れないじゃんッ?!

そんな青ざめた姿の紗笑の様子を察してか、宮司は ”行っておいで” と言わんばかりに語りかける。

「花ちゃんパパ、すいませんが…わ、わたしもちょっと近辺見に行ってきます。夫が少々心配ですので」
紗笑は一目散に神無月神社を後にすることにした。









紗笑はどれくらい歩いたのだろうか……


―そもそも私があの本を何気なしに見てしまったから?

ーいえ、ただ見てただけよ。

ー目にするだけで災いが起こっちゃうわけ?

「そんなわけないっ!」
つい、口からこぼれてしまった言葉。

ー神社と関わり合いになったから…?

ー花ちゃんと会ってしまった、から?

紗笑はかぶりをふった。
そんなことは言えない、他人のせいにしてるようなものじゃない……と結論付けてみたが。
先ほどからまた少し強まってきた雨が再び紗笑の髪を濡らし始めていく。
「もうッ!!なによ、この雨……」
考えてみれば、一人行動していると決まって降り出すこの雨。



まるで、見えない誰かにずっと始めから見られているような……



もう一歩歩き出そうとしたそのときに……!!


ズシンッッッ!!!


「…きゃッ!」


容赦なく第二波が襲ってきた。
そしてその揺れはすぐに収まる……わけではなかった。



ドンッ!!ご ご ご ご ご ぉぉぉ……




「う、うううわわわ……ッ!!」
まとも立ってられない状態である。

ーこの揺れ、ハンパないわよッ!!震度6強ぐらいあるのでは

と、紗笑が土壁に手をついたら、背後でものすごい水の流れる音が。


ゆっくり・・・ふりかえる・・・


「今度は何……?!」
紗笑は目を見開いた。
いままで見慣れていたスマートタウンの整然と区画された ”それ" の原型が体を成していない。
一瞬、侵食された岩肌の上を勢い良く水が流れていく水流がアメリカのナイアガラの滝のように
模した有様となっている。

震度6強の地震はたっていられないのはもちろん、建物の倒壊、破片の飛散、固定していない家具の移動により、不意なデンジャラスシーンに出遭えうることだってある。

紗笑の後にザーーーーーと次々に新しい水脈ができていく。


まるで生き物のように。


津波が来るはずもない街に、次々とどこにそんな水脈があったのかと疑うほど流れはやまない。
そして水の流れる音とともに。





「紗笑ッ!!」





紗笑の前にもあらたな水流ができるのと同時に、人影がふと拓ける様に、しかし直ぐに途を閉ざされてしまいそうになる何かが紗笑の前に現れた。

ワトソンだった。







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そのワトソンの声がした同じタイミングに。

『ウグッ!!……す、水流の流れがつよす…ぎる…!!!だ、誰か?!』

紗笑から見て、第二流の水流の右手から水流にもまれながら、流れてきたであろう丸太につかまりながら叫ぶ男の姿が見えた。
―結の夫らしき男、そしてその男が抱えるもうひとりの男……。

拝命されたばかり、この街の市長をしていた月原の姿も見えた。
官庁の関係の仕事で図書館の仕事はしていたが、紗笑は市議会だよりの写真でぐらいでしかこの街の市長のことを知る由がなかったため、初めてこの目で初対面した。
もちろん写真の溌剌としていた表情は今は見ることができなかったが。

紗笑が二人に気づいた同時にワトソンも彼らに気づいた。

現在の彼ら(市長ら)の状態は細くなっている水流に丸太がうまい具合にビーバーの関所のごとく岸によって一時的に挟まっているようであり、彼らはその、またいつ動いてもおかしくない丸太にしがみついていて(結の夫は丸太につかまり、かろうじて市長も抱えている状態)アップダウンを繰り返している。

「どうしよ……」
離職前に図書館の人命救助の研修を受けたこともある紗笑だったが
「しょ……正直、水害時の対処ってあんまし知らない……ど、どないしたらええねんッ」
お役所の機転の効かなさ以上に、自分自身の知識不足に唇を噛んだ紗笑。
そんないたたまれなくなってしまい、みるみる焦ってワトソンも見たことがない紗笑の焦燥しきってくる表情を感じ取ったらしいワトソン。

「さ、紗笑!!君こそ落ち着きなさいッ!!」

水流の轟音に負けないぐらいの声量(普段実は聴いたことがない)で紗笑に叫ぶワトソン。
「ボクも救助法ぐらいは心得ている!だから一緒に、協力しなくちゃいけない!!」
ワトソンが応援団長のように大声で話している姿は紗笑も見たことがなかったらしく、なかばぽかんとしていた。
すぐに被りをふったが。
「この先はもしかしたらリスクが高まってるかもしれない、さっきまで駅前にいたからわかる!離れたところに軽トラを停めている、それに積んでいるものがあるからほんのすこしだけまっててくれっ!!」

ーえ?
と、紗笑があわてて訊いた。
「何をー!?」
その声を走りながら背後で聴いていた、ワトソン。
振り向きざまに…

「竹だ!!」



?!




この期におよんで自身の趣味を炸裂させる術があるのか?と、まったくもって不可解な言動と行動をする
愛する夫、ワトソン。


しかしながら、今はそんなことを考えてる場合ではないらしい。
静かに水流は水かさを増してきているようでもある。

もちろん被害があちこちで起きているこの街にすぐに消防が駆けつけてくれるわけでも、救助ヘリが飛んでくるわけもないだろう。

自分達ができるすべての可能性を試さないといけないらしい。

まるで

神に試されているような……



と、紗笑が目をギュッと閉じたそのときに。
空は暗く、昼間でもまるで日食のような感覚に近い、その刹那、紗笑の脳裏に光輪がボウッ…と
映し出される感覚を覚えた。

《君たちに果たして彼らを助けられるのかな?》

ーえ?

《ボクだけがその答えを知っている、ケド、なんで人間は利害あるものまで助けるのかな?》

森がいっせいにざわめく。

《運命に立ち向かうその勇気、僕も本当は欲しかった……花ちゃんを彼らから守れなかった》

「は、花ちゃんをアナタ、知っているの?!」
そう紗笑が森の神の青年に答えを追及しようと手を、雲が立ち込めるその場所へ伸ばす、
が空にはきっと永遠をかけても届かない。


ー生きている限りは。きっと。


体勢を崩してしまったが、紗笑はすぐさまバタバタと駆け寄ってくるワトソンの姿を確認したら、居直った。


ー今のは、なんだったの?


そう思いながら、ワトソンが持ってきた ”ソレ” をみて、ふたたび目を見開いた。

「ま、マジで持ってきたんッ?!竹ぇ……」
「あぁ、、ま、まぁ今の紗笑には信じられないなら僕はそれでもかまわない、だけどベトナムでは当たり前にしてたりすることだから」
「へッ?!」

ワトソンによると、ベトナムでは雨季になると洪水の被害が甚大なため、竹造りの住居を構えている家庭が多いらしい。
床部分を縦・横・縦・横と竹を組み、柱を立てて、壁も構え、なおかつ屋根造りも特徴あり、家自身も通気良くさせるよう、まるで星型に形状させて造る。
その竹の「水に浮く」性質を使い、即席の救命ボートを手際よく作るワトソン。
郷里は海に近い場所にも住んでいたからだろうか、一緒に持ってきたロープ紐を結わえ始めた。

「紗笑!二重八字結びって知ってるか?ヘアゴムを二本一遍に結ぶ、二本バージョンの結び方だ!!いまからロープをそちらに渡す、そのロープを引っこ抜きそうにない大木か何かにくくりつけて二重八字結びを行ってくれ!」

夫もエンジンがかなりかかっているらしく、思いあぐねている紗笑も、やれやれ……と
「わかった!渡してちょうだい!!」
「オレはこれからこのボートを使いながら二人を岸にあげる、そのあと応急救命処置を行おう」

一回目、ワトソンが片方結わえたロープを紗笑に手渡そうとしたが、うまく届かなかった。
「……風を利用してみたら!」
紗笑の提案で、ちょうどよく吹きとどまってきた山風を利用して、二回目の手渡しを試みた。

ー届いた!
早速届いてきたロープを手近な植樹にくくりつけてみる紗笑。
安全を確認する紗笑。
彼女の ”OKサイン” を見たワトソンは、轟々とうねりをあげる水流に歩み寄り、渡し紐とくくりつけた即席の筏を水面に浮かべる。

風も一層強くなってくる。
ワトソンの赤茶色の髪を激しく乱す。

まるでそこにはいない誰かが行く手を阻むように、、、

救助者は自身の安全も確認しながら救助活動しないと救助リスクがより高まってしまう。
難易度の高いことをしているとは二人はわかっていた。
だが、助けるに値するのかしないのかは今は二人にとってはそんなことどうでもよかった。

一歩一歩駒を進めるワトソン。
水流の急激な水温低下により、市長はおろか、結の夫も半ばぐったりしはじめてきている。

「もうすぐです!!しっかりしてくださいッ!!」
救助者の耳元で大きく声を張り上げるワトソン。
ジャブジャブと水しぶきを立てながら、一人の脇をかかえて竹の筏にあげようとしたそのとき。


「…市長ッ?!…」


信じられないことが起こった。
本人の意思なのかそれとも自然に、なのかはわからない。

市長が結の離れないよう繋いでいた腕や手を解き、自ら……

意識絶え絶えとなっていたが、市長の信じられない選択に最後に発した声がかすれてしまった結の夫。














ーどれくらい、時間がたったのかわからない。

水温による冷たさで軽く低体温症になっているようだ。
男性でも冷えはあり、目の下にくまができたり、しきりに腰痛を訴える例もあるといわれ
普段、デスクワークで運動の機会をなかなか作れなかった結の夫はかっこう低体温症のターゲットとなってしまった。

軽トラにたまたまブランケットを置いてあったのが功を奏していたが、紗笑とワトソンのふたりは車内で黙りきっていた。
別のルートでとりあえず神無月神社へ向かっていた。



この神社はなんともふしぎで行き方では何通りもの方法で市街地へ下りられるようにもなっている。
ひとつ、加筆し忘れたが……人の足で歩くという方法で、だが。




ー進む先に、黒い長い髪を無造作におろし、ボー…と空(くう)を見つめる人影が。
訂正…その姿は、結だった。



「結さん!!」
「…紗笑の知り合いか?!」

ギャギャッとブレーキを踏む、ワトソン。

急停車したトラックのドアが開く。

時間をそんなに置いてはいないのだったが、あの輝かしい時間とは違う時間に会ってしまったような。
わなわなと震える、結。
「(バツがちょっと悪そうに)…結さん、これにはいきさつが…」
紗笑が結に事情説明するやいなや
「結…!」
ずっと伏せがちだったまぶたがピクリとうごく結の夫。
「君にずっと逢いたかった……もう、この世で二度と逢えないと……このように何もかもすべて失くしてしまったが……」
ツカツカと歩み寄る結。


パン☆


軽く夫の頬を叩く、結。
何が起きたのか錯誤する男。

「何をおっしゃってるんです、あなたがこうして戻ってきてるんじゃない……結さんとそしてかねてからお会いしてみたかったそのだんな様まで会えちゃったんだから、わがままなんて言えるわけないじゃ……」
その場で崩れる、結。

プルプルと、まだ冷えで暖かさが戻らぬ大きな手が結の頭を撫でる。
「あなた……」













□ Conclusion


《大咲市、川桜市など各市庁舎では災害対策本部を立ち上げられていて、いまだ不明者・失踪者・けが人・安否確認など対応に追われており、後任がまだ決まっていない葉月市でも消防団や有志の民間団体などが救助本部の設置、対応、、、炊き出しなど多くの市民の人手を集めており、現在……》

軽トラに搭載して窓を開け放して流していたラジオから、キャスターの生中継が流れる。



何度目の夕風だろう。



紗笑の見つめる先には石造りの門構えの玄関門柱のそれはしっかりと残っていた。
が、その先は……欠陥住宅を戒めのごとく物語っていた。

今でも、あの大変なときによく避難、というジャッジを下したわねと思わずにいられない。

家の後ろにはもうすでに暮れかかって黒になりはじめている山々が映る。
空を悠々自適に飛び交う鳥達。
彼ら彼女らが今ほど羨ましいと思ったときはない。

そして。

紗笑が手をかけて育てて、門柱ぐらいの高さまで育てていたはずの向日葵の花の姿はどこにもなかった。
植木鉢ごとどこかへ流されてしまったらしい。
写真もそんなには残してはいなかった。
残っていてもスマホに数枚ぐらいしか残っていなかった。

そのスマホの写真の画像数もあれからかなり激減してしまった。
写真を撮る恐怖感、が彼女自身にも精神的に重く感じてきていたのだったのだろう。


明け暮れて、直に闇になろうとしている葉月市。
スマートタウンといわれて、唯一の自慢だった家はもちろん、好きだった街が今では違う感情を
抱かずにはいられない。

結の情報網から聞いた話だが、実際、盗難の件数がここ最近多くなってるようだ。
そんな負も抱えた街をこれからも住み続けられるのか、彼女には実際自信がなかったが。


ふと、自宅の門柱の上に手を置いた紗笑。

手の甲を静かに吹き抜ける、早くも夏のおわりを告げる風。


結は次期市長職を渋っていた夫をなだめ、葉月市の市長を務めるようなんと説得させたらしい。
なので、報道陣の取材も本当にアポを最小限にとどめ、顔出しNGの謎の市長、とまで揶揄されてもいるようだが。
神無月神社で出会った花、という少女。
震災以来、不思議なことに彼女と会うタイミングはなかなか得られないのだが。
これまた近所のうわさ好きなママ友の情報網により、どうやら神無月神社に養子が一人入ってきているらしく、その子と花との神社の継承争いがあるとかないとか。
その子もことあるごとに花に茶々をいれるので、たびたび困っているとかいないとか。



















「あ、また境内の掃除サボって。」
花の凛とした声が神社に響く。
「うっせー!あの頑固親父のもとでおまえはよく黙って仕事できるよな、オレは18なったら独り立ちだぜ、夢はシンガーソングライターだかんな、そこんとこよろしく」
「また~夢物語語っちゃってますよ……」
植樹された木々の高さを軽く超えた高さ、紅葉からはまだまだ低いのだが……可憐に成長した赤い巫女装束姿で神社の境内をシャッシャッと清掃していた神無月花。

ーん?わたし??
そんな心配御無用よ、とっくの昔に私は神社の神主幹部の進路を奪取しているから。
あのヘボい義理の弟とは真逆な、まっとうな進路だから☆

ーはぁ、拓斗が入院して記憶喪失だったあの時がちょっとなつかしいぃよぉ。。。
 あ、拓斗、っていうのはもとはあの謎の失踪した前市長(だったらしい、話で聞いただけだからくわしくはわかんない)の子どもらしいけど、震災孤児となってしまってたから神無月家で引き取るっていうことに(いつのまにか)なっちゃったらしい。
世間ではかわいそうな草食男子、ってなってるけど、冗談じゃない、小さいときどんだけアイツにしてやられたか。今度は私が…ッ

ーはぁぁッ?!
付き合ってるわけないよ!!!冗談かまさないでちょうだい……
あまり私を怒らせないほうがいいんじゃない?

私を怒らせると、告げ口しちゃうわよ[ハート]紗笑館長お姉さまに[ハート] [ハート] [ハート]







                                    
                         一応、『福の神はいない』 終了……?!

『福の神はいない』  20 [研究]

「アンタは・・・いったい何者なんだッ?!」
市長と結の旦那は驚き戦いていた。

人間の力では到底動かせないだろうであろう岩、周辺の竹、を地割れをいとも簡単に起こさせて
次から次へと地中にあるものを根こそぎ引っこ抜き、“ひとつの道” をつくろうとしていた。

―ま、ボクもその一人かも。

 悪の中にも “善” と “悪” の両方が存在するように。

 キミ達が良く遣う "背信的悪意者" ってヤツ?

 たまに天邪鬼だろ、と間違われるけど、天邪鬼はボクとはちがうヤツだからそこんところ間違わないでね。

 ぼくはこの神無月神社の森を守る、神のような、見習い的な、ま、そんな感じだから。


まだ、このふわふわ宙を舞う不可解な青年の姿を信じられない眼で見つめ続けていた。
なかでも、結の旦那は特に何かを思い出すように記憶の糸を手繰っていた。

―さぁぁて。
 もうすでにお隣のお連れ様のご様子が優れないようですね?
 紳士殿。

「え・・・って、ぅうわぉッ!!し、市長、市長!!目を覚ましてください!!」

市長は、いつのまにか胸板まで溢れ返っていった新しい水流の水の上にプカプカ浮いた状態になり
すでに意識がなくなっている。

「お、おま、、お前!!なにしたんだ、市長に!!!」
周章狼狽する結の旦那を静かにさやかに笑いながら、静かに口元を開き始めた。
「君の返答しだいだな」
「なにッ・・・?!」
理解できない、という風に睨み続けていた。
「君は君で賞賛が必要だったんだろう?その男に尽くすことで。だけどそれはぶっちゃけ尽くし損ってわけだと思うのだが、最後の回答は君の選択に任せよう。三日月君。三日月クン。なんてね」
声色は青年なのか少年なのか幼児なのか分からなくなるぐらい淡い声で謳いだす森の神の青年。

「・・・」
市長の身体を揺らしてもなにも反応が何もない。
ゆり動かしていた右手がふと動きをピタリとやんだ。

ふわふわ浮いていた森の神の青年も "おや?" と眉毛を動かした。

「何かを思い出したのかな?・・・ま、博学な三日月クンならボクのことはもしかしたら知ってたのかもね
だけど入社して仕事するようになってから忘れちゃってたのかもね、僕 の 文 字」














■ 4



《其ノ社ニ住マウ宮守リ 出デ立チ急ギ際

際ヤカナリ 心高シ

アラハシv必定ナリ》


数々の散逸した紙の人型もそうだが、地震で多く社殿に派手に散らばってしまった古文書の中に
紗笑がいつか見たあの本の文字そのままがでてきた。

紗笑が見ていたページはもちろんそのあとの文献の記述後のその事後談のページでもあったが。

『福の神はいない』  19 [研究]

神無月神社。

それはいまから地震が起こる数時間前の出来事だったかもしれない。

「それでは、三日月君。約束どおりにしてくれるんだね」

しばらく暗く佇む薄暗い小さな祠を見つめ続けていた結の夫。
仕事とはいえ、この仕事は引き受けなくてもよかった仕事なんじゃないかといまさら後悔もしていた。
だが

「えぇ、もちろんです・・・が事後処理も市長とご一緒にさせていただくのが前提ですが・・・」

向き合っていた身体を半回転し、結の夫は一点集中で市長をかえり見ていた。
市長はかわらず笑顔を絶やさない。

―何年、あなたと付き合ってるんだと思ってるんだ・・・
 あなたのその笑顔は絶対に約束できないっていうオチじゃないか・・・
上司を読心術のごとく、深読みしてしまう男。


だが、ここまで来てしまったのなら。


無の時間が男の手を祠に誘った。


その祠は雨風しのげる程度の重量感であるため、身体全体に力を入れて持ち上げると動くようになる
・・・と、いつかの上司のその言葉が幻の言葉に変わってしまう感覚を覚えてしまった。
結の夫の身体中を走り抜ける謎の痺れ。
針灸治療をされてるかのごとく、だが、ピリッとした痛みも・・・
風邪の後の気だるい関節痛も覚えてきた。

・・・だ、大丈夫か?!み、三日月君ッ!!し・・・しっかりしたまえ」
叫ぶ市長の声がもう霞となって聞こえない境地に陥ってしまったらしい。


「・・・結・・・」


動かされた祠の岩がメリメリッ・・・とひび割れていく。
と、周辺の雨で湿った地面からもゴゴゴ・・・ッといやな地割れの音が。
ただ一人周章狼狽している市長の足元にも容赦なくひび割れが襲う。
「な・・・な・・・なんだこれは・・・いったい、い、いったいどうなってるんだぁぁぁぁぁ」
やがてひび割れた地面から湧き水が樹木の高さ以上に水量をあげ、湧いてきた。




《ごらんのとおり、あなたは開いてはいけない扉を開いたのです。他人の手を遣い・・・》




いつかの森の神の少年だった。

嬉しいサプライズ v v v [研究]

こんばんはヾ(。>﹏<。)ノ゙✧*。

本日は・・・

今日は・・・

嬉しいお便りをお友達からいただきました✲゚。.(✿╹◡╹)ノ☆.。₀:*゚✲゚*:₀。

それはですね・・・

あぁ、お伝えするのももったいないほどだったりするんですが・・・

やっぱり公開。笑


おしえてあげるよ ジャン♪ (某○リンキーCM曲かえうたw)






↓はい、こちら~↓



もちろん動画転載許可もいただいてます。
彼女の場合は動画作成ソフトから、起案して素材を繋ぎ合わせてつくってくれたそうで
「組み込んだら、わりと短い仕上がりだったけど」 と話してたけど、思いのほか濃厚な仕上がり[黒ハート]

いや~バレンタイン前やのに、口からよだれ出てきそうですよwww

こちらの動画は、わたしがこれまで製作に取り組んだお話しを映画のようなPVに仕立ててくれました。

まるでシンデレラの魔法使いのごとく、活字だった情報が絵となって、動き出して・・・

感謝感激です。

『福の神はいない』  18 [研究]

諧調された記憶から徐々に鮮明な時間に戻される。


結の自宅。
揺れがあった直後から次から次に、大咲市や川桜市など各指定都市の市長クラスの秘書課からの電話番号が次々と結の電話機のナンバーディスプレイに表示される。

「えぇ、えぇ、何度も申し上げているようにまだ戻らないんです・・・・・で、ですから隠してるわけではないのです!」
もう、何度この科白が口から零れているのだろうか。
一方的に電話を切る相手もいたりした。

「おねがい・・・みんな信じて・・・」

電話機の傍に崩れ落ちる結。
夫からの連絡をさきほどから待ち続けているのは結も一緒であることは火を見るより明らかなことなのに。
緊急事態時の日本人はこうも錯乱されやすいのかと結は驚きつつも…ずっとスマートフォンを握り締めている状態。

もういちど夫の電話番号にかけてみる。


ツー・・・

ツー・・・

ずっと小一時間この状態である。


一瞬、雨が止んだと思ったら、今度は本降りな予感の雨が降り出す。

結は堪らない表情で街の様子をなんとなく見やると、整然と立ち並んでるはずの街路樹が一部交差しているではないか?!

「え、なんかおかしい・・・ど、どういうこと・・・って、キャァッ!!」

主要動(余震)が襲ってきたらしい。
しかし、その揺れは一時的なものですぐに収まった。

―見てはいけないものを見てしまったのか?
結はそんなヘンな思い込みをしそうになったが、急に鳴り出したスマートフォンの着信メロディに現実に戻された。

おもいがけず、その電話は紗笑からだった。





《か・・・神無月神社にと、とにかくっ来てぇぇぇ・・・》






《ショート・ショートの小部屋》 久しぶりのトーク会www豪華仕立て [研究]

法果 : はいッ!!今夜はゴールデンキャスティング!!みなさま!!ルパン×コナンの声優陣キャスティングに驚いてる場合じゃないですよwww 今夜は小説キャラクターより召集をかけてご来臨賜りましたみなさまをご紹介します[グッド(上向き矢印)]

紗笑 : 法果さんすいませ~ん、わざわざ進行をお願いしまして。なんせ座談会開催したのはいいけど
なんせ財政難なこのご時勢。。。東京からきてもらってありがとうございます。法果さん今はエッセイも書かれてるんですよね、このまえ久しぶりに元職場の図書館に足を運んでみたら法果さんのエッセイが見つかって!

法果 : こちらこそ主人の浩一もお招きくださって助かってますよ^^ おかげで ”オレの仕事が増えるかも” と喜んでおりますしwww

紗笑 : アハハ

法果 : さて、そんな今日は他の皆さんもお招きしております!
      作者より伝言をそのままカントリーロードのお父さん風に棒読みしますねwww

ゲスト : 待て。[手(パー)]

法果 : はい、度が過ぎました。。。 えーまず私小説から!
      『福の神はいない』 より 紗笑さん × ご主人のワトソン氏
      『時間旅行』 より 香奈枝さん × ご主人の健人さん
      『三つの事実』 (※ブログでは公表していません・ざっくばらんに海外渡航の推理小説です) 美鈴さん × ご主人の治さん

三つの事実.jpg
参考写真

      そして私、
      『Mute Voice』 より 主人の浩一、私法果でお話をお届けします!!・・・が!もう一方スペシャルゲストをお招きしております!!
      すぐにご紹介してもかまわないのですが、まずヒントを[わーい(嬉しい顔)]

【問題】 (←急にwww


大好きよ、否定していたけど。多分愛している」 「回帰するものだね

法果 : はいっ!!以上ですwww

スペシャルゲスト : そんな問題でわかるのか。

法果 : ガクガクブルブル。。。

美鈴 : (ゲストと会話しただけでなんか緊急事態っぽい)...うーんここは現場に場慣れしている私達が代理で紹介させていた方がいいわね、ねぇあなた?

治 : いたしかたない。それでは・・・

美鈴&治 : (法果からかっさらったカンペ横目に)小説友の作品 『ジャッジ・メント』 より 主人公の名神彩乃さん × ご主人様の蛍灯怜司さんです。 謎の島・月白島で起こる怪事件で出てくる、登場人物様です。

治 : 法果さんから預かったプロファイリングを元に皆様にもお伝えします、ちなみに作者より参考写真をいただきました。

P1000182.JPG

治 : こちらが学園での激写資料です。こりゃある意味すげぇ写真だ、いいのか作者・・・って、うぉッ?!

美鈴 : 脱走した模様。直ちに緊急ヘリ要請するわ、瑠美ならアメリカぐらいなら普通に情報網通じてるしw

法果 : と、いうことでこちらのみなさまから一言ずつメッセージ預かりたいと思います。
      えーとぉ、まずは『福の神はいない』の紗笑さんご夫婦から!

紗笑 : メッセージって。。。ちょ打ち合わせでは出演だけっていってたやん、そんなんコメント求められてもム~リ~(以下略

ワトソン : My wife is beautiful[黒ハート](Give me a choccolate. )

法果 : あ、ですよね~・・・現在小説進行中ですしw 発言がネタばれにならないか心配ですよね^^;;;
      で、ではでは、お次は 『時間旅行より』こちらのお二方!!

香奈枝 : 仕事は段取りとアポと要領よくとコストダウンが重要ですわよ[メモ]

健人 : やめろって香奈枝、いつまで仕事人だよ、もう退職したんだろ?

香奈枝 : なによ、あなた!!元重役とおんなじよーなこと言ってんじゃないわよ!!

健人 : んだよッ!!人がせっかく心配しているのに・・・

法果 : は、はいは~い[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)][たらーっ(汗)][たらーっ(汗)]おつぎは、えっとぉ~~~『三つの事実』より 美鈴さんと治さんより。

美鈴 : 今回の『福の神はいない』というお話、実は編集事務所(自宅)でちょっとまえに見させていただいてるんですが、ミステリー調のお話みたいで。わたしは時々出てくる花ちゃんって子が可愛らしいなって思うけど^^

治 : 僕は……まぁ、なんか、その、神社って意外とミステリアスだなとか付き合いとか大変そーだなとかホント漠然としたコメントできないんだが、続けてもいいじゃね?みたいな。

美鈴 : なに、その淡白でアバウトな回答は^^;

法果 : ありがとうございました!最後は~♪スペシャルゲスト様からです!

怜司 : お招きいただいてありがとうございます。

法果 : このあと、某鑑定の番組にも出演予定らしいですね。作品は処女作ですか?(←なんとか生還した法果
怜司 : 教えたいことは山々だが、ここはあえてコメントを控えさせていただく。

彩乃 : 主人もそのように申しております。どうかそっとしててください。

法果 : かしこまりました。。。

      それでは、そろそろこの辺で・・・ん?あ、ダンナ忘れてたw
浩一 : うぉぉぉぉオレの番宣ができなく (強制終了www

『福の神はいない』  17 [研究]

―数週間前。

大きな官公庁の会議室。
輝く空はまだ梅雨入り前の青空で、よく晴れた日でもあった。
高い階層に位置した部屋にコの字型に配置されたテーブルに呼ばれていた、結の夫。

今日の勤務が終わったら久しぶりに妻との会食を予定していた。
「ここ最近、議事堂が自宅化としていたからなぁ……それにしてもなんで仕事というものはいとも簡単に次から次へ
産み出されていくものなのか……対人恐怖症に陥る」
細長い眼鏡の奥で空を見つめる男。

発言した文字通りに青空で流れる雲も次から次へと流れていく。

窓辺に寄り添っていたら、ガチャ!と大きく扉が開く音がして慌てて男は居直る。
扉の影からゆったりした歩調で現れたのは ”日本の第二の操縦桿" とも裏で囁かれている、男の上司・異動前の市長が現れた。

何もいわずに市長は男の近くまでゆったり歩み寄り、手近に用意されてたコーヒーサーバーに紙コップにコーヒーを二つ淹れ、男に手渡した。
今までに見たことがない光景だった。
なぜならいつも自分が市長にカップに用意をしていたものだから。

「堪らなかっただろう?男に湯茶の応対をさせるなんて」
「いえ、滅相もございません」
「何固くなってんだ、今だけは無礼講だ」
「おっしゃられても……」
市長にムンズッと右手をつかまれて強引にコーヒーをつかまされた。
「心配するな、防犯カメラが何カメもあるこの部屋でなにかワナなんて仕掛けてない、安心しなさい」
ときどき冗談が口ぐせでもあるのだが、今日の冗談はなんだか弱気なところを感じた男。
恐るおそる静かにコーヒーを口に運ぶ。

「君を次の次官をと、考えている」

真横の窓辺に横切る一枚の青葉。
それは空を切るがごとく。

「ど、どうされたのですか?お話が急すぎておっしゃってる意味や事態がつかめないのですが」
「そうだな、ワシでも急な話題過ぎて追いつかないよ。だがな、昨今の情報サービス業の動向がどうも芳しくなくてな。システム等管理運営受託やソフトウェアプロダクト、そしてそれらに関わる労働者があまりにも非正規が多すぎる現状でな、それで新規に起業を促すためのプロジェクトをあげて一人ひとりが正規で働ける環境を整備しようと……」
「…と、なりますとやはり非正規のリストラや派遣切り政策に」
「キミ、他所では言葉は間違わないでくれ」
ゴホンと咳払いする市長。
「情報サービス業だけでなく、建設業界の売上高減少・監査法人でも売上減少傾向……人件費が多くかかりすぎなのだよ民間は」
言葉がズケズケとふりかかる男。

「経過 (プロセス) はどうこうにせよ、キミにはなにかやり遂げられそうな力を感じるのだよ。どうかね!やってみないか、後ろ向きの政策にはしない、引継ぎまでは遠慮なくワシがキミに諸々を授けようじゃないか」
そういって、市長は男の隣に並んで背中をバンバンと景気良くたたく。一点の曇り……なく?

『福の神はいない』  16 [研究]

「花ちゃん…!!大丈夫?!」

またもや不意な揺れによって花の身体が宙に浮く格好となる。
その場に居合わせてた母親によって抱きとめられたが。


踵を返して舞い戻ってきた紗笑は、花やその家族の安否を確認できたが
もう一度戻る帰路へと目を向けた紗笑は街へ続く道なりという道が音を立てて、それはまるで
板チョコが真っ二つに割れていく様のような、地割れを起こす様を目の当たりにしてしまう。


整然と整われた美しさが脆く音を立てて壊れていく。


積み上げてきたこれまでのモノがすべて見えない力によってゼロに戻されていくような。


神無月神社近くの街路樹の一部もミシミシと音を立て始めている。
紗笑は恐れ戦きながら一旦花の神社に歩を戻す。

「これは酷いのぅ・・・」
ふと、花の傍でまだ青々しい葉っぱが若々しい、桜のソメイヨシノの大木を見つめていた花の祖母らしき老女。
「ナラ枯れの影響が泣きっ面に蜂の状態の御神木が危ういのう・・・なぁ、ばあさん」
となりの祖父らしき老翁。

花の母親のすすめで、一旦紗笑は神無月神社に待機することとした。
「私はもう一度、念のため本殿の様子を確認に行ってくるよ。。。」
宮司の花の父親が声色変えて神社の方面に歩き出す。
「また?あなた、二回目のこの揺れならそんなたいした被害はないんじゃないの?」
母親がいぶかしげに父親に話しかける会話を聴いていた紗笑は、ふと自分の書斎で見かけた書物の一文が
神の啓示のような金の文字が脳裏で描かれるような感覚を覚えた。
居てもたっても居られなくなり、紗笑も宮司についていくよう懇願してみた。

「・・・なにか腑に落ちないことがおありなのでしょう・・・いいでしょう、ついてきていただいてもかまわないですよ」
目を細める父親。
「あなた・・・?」
母親と花は不安げに父親と紗笑を比べ見た。


夏の不快な湿度を伴う風があたりを不穏な気を吹きとどませる。














□  3



時折雲間から差し込む月明かりが妖しいまでに神無月神社の社殿を明るく照らす。
その月明かりは歩き進む宮司の袴を神々しく照らしつつも……

後ろで軋む通殿を歩くもうひとつの影は紗笑。
静かに伝う冷ややかな汗……。

ポケットのハンカチで静かに拭い去る。
二つの影はやがて拝殿→幣殿→本殿の中へ。

「こ・・・これは・・・?!」
宮司が声を漏らす。
後ろで戦きながら宮司の左肩の光景をのぞき見る紗笑。

静かに歩を進める。



大量の形代 (人や車、家の形を型どった紙) が辺りに散らばってもいたが……
宮司はそこではなく、ご幣帛 (へいはく) のほとんどの物が破損している様に驚愕していた。
紗笑はその神社で見かけるものの名前がまだ分からなかったが、宮司の見たことのない表情に
一部を察してしまったようで、つい息を呑んでしまった。

「紗笑さん、ふつうはこれ初詣前や初詣のご参賀にこられる皆さんのために用意しているものなんですが・・・
いつもはこんな散らばりやすい場所に置かれていないはずなのに、なんでまたコレだけが……不可解なことになってきている」

『福の神はいない』  15 [研究]

街はまだ雨上がりのはずなので、路面は水濡れで悪路にもなっているはずだ。
にもかかわらず鼻緒の履物らしい靴である。
静脈循環障害などの原因になるため水濡れたままの履物の長時間の使用は避けたほうがいい……

そう察した紗笑は花のもとへ方向を向けた。
広葉樹や針葉樹の葉から滴り落ちる雨滴の量が全然ちがうので、その滴はあらゆる方向から紗笑の髪を
濡らしていくが、今は一向に構わなかった。

―こんな時間に女の子の一人歩きはご法度だわ。
 街のパトロールも人員不足のためかしら、深夜の巡回はあまり見られないわね……


急に足元が明るくなった。
電灯の青白い明かりがアスファルトを照らす。
どことなく、深夜帰宅の家庭の家からコーヒーの焙煎した香りすらここまで漂ってくるようだ。

紗笑は落ち着きを取り戻し、(獣道からようやくはずれて)歩道を歩き始めた。
暗く影をおとす小さな子どもの後ろを追った。


住宅街とは反対側の山があった方へ見ながら、紗笑がすこし歩道を歩いていたら
急に大きな建設業の許可票の立て看板が設置されているのを見かけた。
「え?!昼間車で来てたときにはこんな看板は立ってなかったような……?こ、これは……!!」
と、普通のトーンでつぶやいてしまった彼女は、前方をとことこ歩いていた少女・花に気づかれてしまう。

「え”っ?!」
花も相当ビックリしたようだ。
逃げられてしまうぐらいのリアクションで心配して両手で覆っていた指の隙間から彼女の様子を窺う紗笑。

立ち止まる花。
そしてゆっくり振り返る。

・・・

・・・

・・・

「あ、昼間のおねーさんだ」
意外にもあっけらかんと反応してくれたので、やっぱり子どもは感覚が違うなぁと感じてしまった紗笑。

「ご、ご、ごめん?驚かせちゃったわね」
紗笑の方がたじろいでしまった。

「ううん、花、だいじょーぶ、へーき」
きょとんとする花。

居直りした紗笑はゆっくり落ち着いて花の元へ近づく。
「そっか!おねーさんは、あ、わたしはさえ、っていうの、あのときちゃんと名前言ってなかったねよね」
「さえ、おねーさん・・・・・・?」
ゆっくりと発音するところもまだまだ3歳~4歳児らしい。

とりあえず紗笑は花の同じ方向へ歩を進めることにした。



遅かれ早かれ、伝えといた方がいい事実をいつ切り出そうかと、悶々していた。
小さな子につたえるのもまだ複雑すぎて、好きな絵本のこととかどうでもいい話ばかりになりかけていたから。

きっとわからないかもしれない。

そう判断した紗笑はとりあえず花の自宅まで送り届けることにした。
初めての出会いから、間を置かないうちに花とその家のことをあらかじめ知っておいてよかったと紗笑は心底ホッとしていた。

軽くノックをし、明かりがこぼれる神社近くの自宅の門扉に。
人影がひとり、また一人と増えに増え、親族ご一同様方の熱い歓迎を受ける形になってしまったらしい紗笑は
照れ隠しに笑うしかなかった。

ひとまず、花の母親らしい女性に促されて客間へと通された。
と同時に床の間から上がりこんだ花を見て、縁側へ歩いていく花を母親はおきまりのお叱りのシャワーを受ける。

「花ッ!!何度言ったらわかるの?!今回は母さんも知ってた人だったからよかったものの、知らない人だったらどうするの?!かあさん知らないよ!!!」 母
「まぁまぁそう怒らなくてもいいじゃないか」 父
「そうですよ~、の~んびりいきましょ、ね」 祖母
「わはは、我が家のお姫様のご帰還だぞ~甘酒だ~ばあさん~」 祖父
そんなのほほんとした光景をほっとした様子で見つめていた、が同時に夫・ワトソンのこともすこし心配になってくる紗笑。
一抹の不安を抱えながら、手短な滞在時間と決めた紗笑は花の両親(とその一族??)とすこしだけ話をするようにした。



刻は翌日となっていた。
そんな花の神社を後にして帰路を考えようとしたその刹那。







グラグラグラグラグラグラグラ……ッ!!
第二波がこのスマートタウンに襲ってきた。

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